プロローグ

   <小説>   


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 べガール大陸と言われる巨大な陸地には、五つの国がある。
 山、湖、川と人間の手で作ることの出来ないものに阻まれ、それぞれの国はまったく違った文化を作り上げていた。
 文化だけではない、重なり合うものがないほど違った生き方をしていた。
 自分の国だけで生きていた頃は、大きな問題にならなかった。違った生き方を、違った場所ですればいいのだから。しかし、ひとたび国から出て他国への情報得、興味を持った時、均衡は見事に崩れ去った。
 生き様の違いは争いを生む。
 理解しあえない互いの国は、暇さえあれば戦いを引き起こすようになった。理由は些細なこと。血に飢えた獣のように、互いの姿を見るだけで威嚇しあう。
 張り詰めた糸が切れれば殺し合いが始まる。
 戦いは、どちらかが白旗をあげるまで続いた。力には力、剣には剣、血には血。
 欲しいものがあった時、憎むべき存在ができた時、小さな欲望が王の心を支配した時、戦いは生まれ奪い取るという形で欲望を満たす。立ちはだかるものは敵とみなし、命を奪うことで物事を解決する。
 戦いでしか何事も生まれず、消し去ることも出来ないと思っていた。
 戦いが好きだったわけではない、それ以外に解決の術を知らなかったのだ。なぜなら、彼らは同じ言葉を持たなかった。
 長きに渡り切り離された生活をしていた彼らは、話す言葉も考えもまったく違ったものだった。話し合いなど存在しない。通じない言葉では何の解決にもならず、ただひたすらに滅ぼすことを目指すしかなかった。それが、間違いだと気づき始めたとしても、どう変えていいのかわからない。
 すべての国は、自らの国と人々を守るために戦い続けた。

 戦乱の時代はベガール大陸に五つの国が生まれた時に始まり、長い年月変わることはなかった。

ベガール五国の南部にある、アルキーネと呼ばれる国には、『神の化身』と呼ばれる二人の王がいた。 

 美しい顔に似合わない強さを持った王だった。
 彼の名は、アルファルド。幾多の敵をなぎ倒す力を持ち、すばやくも的確な洞察力は戦闘の状況を読むのも早く、思いもよらない戦略で迫り来る敵を食い止め打ち勝った。
 まさに戦うための王だった。
 偉大さは噂となり語り継がれ、それは他国へも浸透していった。恐怖を与えると共に、寛大で広い心を持った彼は人々に愛され、不思議な魅力が人の心をひきつける。彼とは戦わないほうがいいと肌で感じとり、戦いは自然と静まり始めた。
 出来るだけ他国との摩擦を避け、国の発展に力を注いだ時代へと変わっていったのだ。
 アルファルドは、意図的にそう仕向けるだけの力を持った王だった。
 べガール大陸の英雄、と後の時代まで語り継がれるほどこれまでの王とは違う存在だった。

 そして、もうひとりその名を受け継いだ王がいた。『創造の神』と称されたその王は、ベガール大陸の世界を変えた。
 大人しい外見と同じく、優しい王だった。
 争いごとを嫌い、命を手にかけることに嫌悪感を抱いていたからだろう、今まで出来なかったことを実現しようと試みた。その行動が五つの国の運命を変えることになる。
 彼の名は、アリオルト。
 父親の急死で十七歳という若さで王になった青年王。アルファルドの曾孫にあたる。
 彼が王位を継いだ時、誰も王だとは認めなかった。
 それは、彼の祖父が犯した罪のせいでもあり、信頼していた先王を失ったことも理由のひとつだった。そして、それ以上にアリオルト自身が自分の運命を呪うほど、王と言う立場を受け入れられなかったからだ。
 彼は王になるには優しすぎた。
 アルファルドの子孫と言う言葉も、神の化身と言う言葉も、似つかわしくないと思うほど王の子として生まれたことを嫌悪していた。何も出来ない弱い自分を責め、苦しんでいた。
 頼りない空気を人々は敏感に感じ取ったのだろう。彼に国は救えないと思ったに違いない。
 もし、あの日、あの場所に導かれることがなければ、彼は苦しみのうちに命を落としていたかもしれない。
 運命の神は、アリオルトに手を差し伸べた。
 理由はわからない。
 彼の優しい心にかけたのか、ただの偶然か。ひとつ言えるのはあの日の彼の決断が、変わることがなかった古からの風習を打ち砕くきっかけになったと言うことだけだろう。
 彼を創造の神というならば、あの日にすべてが始まった。

 運命の日は、アリオルトが王位を継いだ日までさかのぼる。今より数十年前、春の終わりごろの出来事だった。


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